稀有なバスツアー②

元気かな?

続きの話。1番目の集合地を出発するやいなや、バスガイドさんはずっと電話をしていた。ツアーのバッジやアンケートや他ツアーのチラシやその他諸々を駅に置き忘れてきたということだった。お嫁さまが「個人情報は大丈夫なのかしら」と心配していたが、バスガイドさんは詳しいことは語らず、「すいません、すいません。こんな失敗初めてなんですー」とマイクを通して何度か繰り返していた。

2番目の集合地に到着すると、まだ出発して間もないのに1人のお客さんが「トイレに行きたい」と言いだした。バスガイドさんがあたふたしていると、2番目の集合地から乗った男性から「トイレはあそこにあるやろ、予め調べとけ」と声が飛んだ。するとその時点で既に乗客にはお馴染みになっていた「すいません、すいません」がまた繰り返された。加えて、「私ね、今回で添乗員をするのが6回目なんですー、新人なんですー」というセリフも新たに聞こえてきた。ご年齢はどう見ても「この道30-40年」という感じだったので、「よく採用したね。よっぽど人手不足なんかな」とお嫁さまと一緒に驚いた。

バスの中を何度も往復して人数確認を済ませた後、2番目の集合地を出発した。直後から「すいません、すいません」だけではなく、「自分が添乗6回目の新人」であること、「こんな失敗をするのは今日が初めて」だということがお決まりのセリフとして登録されることになった。「一生懸命やっているのでご了承ください」という一節も追加登録された。

既にバスの乗客の何人かがかなりイライラしていることが伝わってきていた。明らかに空気が悪い。

そんな雰囲気を感じながら僕は、「絶対に何か起こるよね」と密かにわくわくしていた。